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【SDGsインタビュー】 全国の棚田と人を繋ぐアイスを作りたい…! 地域とからだに優しいBEAT ICEの物語

日本を代表する原風景の代名詞「棚田」の存続が危ぶまれていることを、皆さんはご存知だろうか。棚田での特殊な地形上から機械を用いた米作りの作業をすることが出来ず、全作業のほとんどを手作業で行う。棚田を管理する農家の高齢化や人口減少に伴い、棚田保全の負荷は大きくなる一方だ。

そんな状況の中、「棚田アイス」を口火に全国の棚田が繋がり、新たな挑戦が生まれている。

今回は、神奈川県葉山町に移住後、ひょんなことから棚田でのお米つくりに関わるようになった山口冴希さんに「棚田アイス」誕生秘話を伺った。

山口冴希
1985年生まれ、3児の母。株式会社BEATICE 代表取締役社長。

【棚田との出会い、「楽しみと喜びが継続に繋がる」】

2015年に家族で神奈川県葉山町に移住をした山口冴希さん。友人から誘われたことがきっかけで、棚田でのお米作りに関わるようになった。

棚田の保全活動をするためには費用がかかり、保全活動を行うメンバーが棚田保全の費用を捻出していた。葉山町上山口にある棚田は、「にほんの里100選」にも選ばれた美しい景観で地元の人に愛されている一方、所有者の高齢化により棚田の維持が難しくなっている。

棚田での稲作は、平地と比べて作業量2倍、収穫量半分とも言われている。

「今のままでは棚田の活動が続かないと感じた。」と冴希さんは振り返る。そんな時ミュージシャンである夫の「楽しさがどんどん増えていくことが活動の継続に繋がる。お米を作るだけではなくて、楽しさや喜びを創るという方に繋げていくことが大切なのかもしれないね。」という言葉が次のアクションのヒントとなった。

【棚田で採れたお米をみんなに愛される美味しい“アイス”へ】

「当初は『棚田の宿』を作ろうと考えていました。宿をするとなると美味しい朝食が必要だと考え、2016年11月からお店を間借りして、葉山らしい朝食とは何か探求し、施行錯誤を繰り返しながら朝食屋さん『立ち寄り味噌汁 ちゃぶがえ』を始めました。」

地元の野菜を使って健康な朝食を提供したいという冴希さんの想いが詰まった『ちゃぶがえ』は地元の人たちが気軽に通える朝食屋さんとして親しまれた。現在山口夫妻が活動している棚田アイスはこの「棚田の宿」の構想から生まれたという。

「想像以上にちゃぶがえの評判が良くて、他のテナントのオーナーの方からも声がかかるようになりました。そこで声をかけてくださった方と一緒にテナントを見学しに行ったところ、目前に海が広がる素敵なロケーションでエアストリーム(アメリカンキャンピングトレーラー)でメニューを提供するというシチュエーションだとわかりました。当時『ちゃぶがえ お味噌汁屋さん』の看板メニューで出していた味噌汁はこの場所で出すメニューとしては合わない、このシチュエーションに合うものは何だろうと考えていたところ『お米でアイスを作ったらいいのでは?海と棚田も繋げることができるのでは?』と閃いたんです。」

地元の野菜を使って健康な朝食を提供したいという冴希さんの想いが詰まった『ちゃぶがえ』は地元の人たちが気軽に通える朝食屋さんとして親しまれた。現在山口夫妻が活動している棚田アイスはこの「棚田の宿」の構想から生まれたという。

料理の得意な冴希さんが早速試作品を作ってみたところ、1回目で美味しいアイスが出来上がった。棚田から生産できるアイスの量は、一週間で30〜100個が上限であった。しかし、OEM(外部の事業者に商品の製造を委託すること)でアイスの生産を委託すると最低でも2000〜3000個のロット数でないと製造を受注してもらえないことが当初の課題であった。

そんな中、葉山の町の方から茅ヶ崎で熱心にアイスを作っている方の紹介を受け、夫とともに茅ヶ崎まで足を運び「棚田アイス」に懸ける想いを伝えた。その結果、1週間で100個程度の少ないロットでの製造を引き受けてくれることとなった。

棚田アイス第一弾は2017年の夏に「コメココアイス」という名前で始まり、パッケージの蓋に描かれているキャラクターが手に持っていたものは味噌汁椀だった。現在は「葉山アイス」の名前で人々から愛され、「アイスが完成するまでに葉山で出会った人達に助けてもらったので、その感謝の気持ちを込めて葉山アイスという名前にしました。」冴希さんは語る。パッケージに描かれているキャラクターが手に持つものも稲穂に変更されている。

【葉山の棚田から広がる輪】

山口夫妻が所属する棚田のチームみんなで一年間棚田を管理し、そこから収穫できるお米のうち30キロを受け取る。自分たちが作ったお米をより多くの人々に届け、喜んでもらうためにはどうすれば良いのか。

「お米30kgで棚田アイスが3000個作れるんです。お米をそのまま食べて楽しんでもらうと多くの人には届けられないのですが、アイスにすればより多くの人に葉山のお米を楽しんでもらえる、そのことに気がついたときは思わずテンションが上がってしまいました。」

現在は山口夫妻が所属する棚田チームから活動を応援する形で「チームのお米」が託されるようになり、より多くの人に「葉山アイス」を届けることが可能となった。

山口夫妻が取り組む「棚田アイス」の活動は葉山町外にも広がりをみせており、高知県・嶺北(れいほく)地域の棚田農家とのコラボを始めとし現在6つの地域で展開しているとのことだ。アイスの売り上げの一部を棚田に還元する仕組みとなっており、還元されたお金は棚田の保全活動に使われる。

「このアイスがきっかけで、他の地域の棚田の農家さんとの出会いにも恵まれました。意見交換をする中でこのアイスを葉山以外の棚田米でも作ってみようという流れになり、実現のために2019年に葉山に自社工房を設立しました。と冴希さんは語る。

ゼロウェイストの取組で知られる上勝町とも連携。

【「お米の素晴らしさを伝えていきたい」、山口夫妻のこれからの挑戦】

お米は日本の社会を支えてきた象徴である。そんなお米の魅力を伝えていくために冴希さんは「棚田アイス、棚田の宿、お米のセレクトショップの三つを一緒にやっていけたらすごく楽しいのでは、と考えています。他にも、お米で作る棚田アイスの他にもみりんとお酒を使ったアイスアイスのレシピを模索中です。」と意気込む。

葉山の棚田から始まった山口夫妻の挑戦は、「陸の豊かさを守る(SDGs / 15番)」取り組みであると同時に、人々に喜びと楽しさを届けることでその活動の“輪”を広げ続けている「真にサステナブルな活動」である。

葉山町の山手にある「上山口の棚田」は、日本の里100選にも選ばれている。

編集後記:

「棚田アイス」の誕生秘話を伺い、改めて「豊かさや幸せとはなんだろう」と考えさせられた。「自分たちが棚田の活動に参加するようになったことで『棚田で作られたお米』には生産者の方々の想いが詰まっていることを知り、生活の様々な場面で生産者の方に感謝できるようになりました。」と語った冴希さんの言葉が印象的だった。

自分がどんな形であれ活動に関わることで、どこか遠い場所での見知らぬ人たちの「他人ゴト」ではなく、「自分ゴト」となる。まずは地域の社会問題や環境問題が「自分ゴト」となり、そのプロセスの中のどこかのタイミングでSDGsや環境問題について考えるきっかけが生まれることで新たなアクションが生まれるのではないだろうか。

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