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【SDGsインタビュー】2020年、絶対に知っておきたい日本のサステナビリティーのリアル

日本では長い間企業が環境保全や労働問題に取り組むことはCSR活動の一環としてのボランティア活動のようなものだと捉えられてきた。しかし、このような企業の意識は昨今の気候変動などの劇的な変化が起きる中で確実に変わってきた。

目先の短期的な利益に囚われて、長期的な事業環境の変化に目を向けない企業が2030年も今と同じように事業を行うこと、さらには現在参入している市場で生き残っていくことは非常に厳しい。

今回のSDGs UNITEDインタビューでは日本におけるサステナビリティー界の第一人者である株式会社ニューラルCEOの夫馬賢治さんに「日本のサステナビリティー のリアルと」を語って頂いた。

夫馬賢治さんプロフィール:
1980年生まれ。ハーバード大学大学院(サステナビリティ専攻)修士課程修了。サンダーバード・グローバル経営大学院MBA修了。東京大学教養学部国際関係論卒。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。国連責任投資原則(PRI)署名機関。環境省ESGファイナンス・アワード選定委員

▶︎モノを生み出していく側の人たちがどう世界を作っていくのか

福永:夫馬さんがサステナビリティー に関わることになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

夫馬:2010年にMBAを取るためにアメリカに行った時に、企業がサステナビリティの実現に向けて動き始めていて、なぜやるのかも明確で、企業の方が消費者よりよっぽど動いているなということを知った時にものすごい衝撃を受けました。「サステナビリティーに向けた取り組みは企業がこれから生き残っていく上で大事なことになるのかもしれないな」と思ったのが始まりです。

僕は消費者からサステナビリティみたいなのを作り出していくのは難しい話だと思っていて、関心がある消費者もいれば関心が持てない消費者もいる。人の考えは多様ですから。なので、僕の場合はモノやサービスを作って届ける側の人たちがこれから何をしていくべきなのかの方に焦点を当てています。

福永:夫馬さんは元から環境問題への意識は高い方だったのでしょうか?

夫馬:僕は環境活動家の方とはこの分野への入り方が全く違うんです。もちろん興味はあったし勉強もしていましたけど、僕にとって環境問題についての入り口は全部ビジネスとファイナンスで、自然保護の活動をしましょうとか、ゴミ拾い運動とか自分自身で動いたことは一度もないんです。そのような活動はもちろん大事だと思っていますが、それだけだと問題は解決しないと思っている人なので自分から環境ボランティア活動などに参加することはほとんどありませんでした。違うアプローチをしないと難しいのではないかと思っていまして。

福永:違うアプローチとは?

夫馬:「何を作るか」の方がよっぽど大事だと思っていて、物を生み出していく側の人たちがどう世界を作っていくのかがものすごく大きな変化を生み出していく。例えば消費者が環境に優しい商品を買うか選ばなくても、そもそも環境に優しい製品しか店に置いてなかったとしたら、何も意識せずに買っていても自然とサステナビリティーの方向に向かっていく。

今企業がサステナビリティの分野に興味を持ってきています。何故かというとこれをしないと事業ができないと思っているから。何ができないかというと、そもそもモノが作れなくなってきている。

生産側の抱えている課題が大きい故に、生産側に何が起きているのか、これから食料や水はどうなっていくのか、気候変動がどうなっていくのか考えていかないと今やっている事業活動さえできなくなってしまうということを恐れ始めているので確実変わり始めています。僕はこの流れでいけば世の中は変わっていけると思っています。

福永:2010年、夫馬さんがアメリカ留学中に目の当たりにした企業の意識の変化に衝撃を受けていた時、日本ではどのような動きがあったのでしょうか?

夫馬さん:その時、日本はほぼ何も動いていませんでしたね。2010年何もなし、SDGs宣言がなされた2015年も何もなし、2017年にやっとスタート地点に立つ、2019年に一合目みたいな状態にあるのが日本です。なので、このままいくと日本企業はみんな国際的な競争に勝てなくなる、市場から消えてしまうという危機感をものすごく抱いています。

2020年にできていることが同じように2030年にもできているのか

福永:いつ頃から事態がより深刻になっていくのでしょうか

夫馬:大体2025年くらいから2030年くらいになると実際に経営や事業が難しくなる企業が出てきます。特に食品、アパレル、あとはエネルギー産業のリスクが非常に高いです。

例えば農業の現状として、今日本の企業は自分たちが輸入している食品がどこから来ているのか原産国以外は全くわかっていないです。でも海外のメーカーはしっかりどこから食品がきているのかを把握してきています。だからどのような長期的に影響を受けるのか、その影響に対してどんな手を打たなければいけないか見えてきています。

福永:アパレル産業はどのような現状なのでしょうか。

夫馬:日本ではコットンもウールも原料はほぼ全て外から輸入していますよね。ですから外で何が起こっているのかを把握しないといけません。事業を続けたいんでしょう、これからもコットンを調達したいのであれば自分たちが使っている原料が生産されている農場がどうなっていくのか知る努力をしなければいけません。

土壌が荒れていくかもしれない、生産量が落ちるかもしれない、干ばつになるかもしれない、洪水になるかもしれない、もしかしたら児童労働や強制労働させられているかもしれない。そのうち急に調達できなくなるかもしれないですよ、と。

福永:サステナビリティーへの日本の取り組みの現状、世界からの日本への評価はどのようなものなのでしょうか?

夫馬:世界からのグッド評価は基本的にないですね。正直なところ、本当に安心してみていられる企業は日本には数社しかないです。ややグッドな会社は少しずつ出てきてはいますが、完全にグッドな会社はないですね。

変化する企業が全体の中から2割出てきたらいい方かなと思います。8割は本当にもうダメかもしれないと僕は心から危惧しています。その2割をいかに増やしていけるかが僕の仕事です。

福永:日本企業は私たちが想像しているより遥かに厳しい状況に立たされていると。

夫馬:SDGsという言葉の裏にある危機に対応できる企業と対応できない企業と差が出てきてしまう。その時に日本は何も準備していない何も知らないと遅れてしまうということはそれだけ生き残れるチャンスを失っているということです。

福永:対応できる企業と対応できない企業の差というのはどこから生まれるのでしょうか?

夫馬:課題の深刻さの受け止め方ですね。例えばSDGsのゴールの中でこのゴールを達成できなかった時に私たちの世界はどうなってしまうんだろうということをどれだけリアルにイメージできていて、それが自分の会社に与える影響を掴んでいて、その上でやらなきゃいけないことが見えていて、アクションすることができているかどうか、ここまでやらないと対応できているとは言えないです。SDGs宣言ということを言って、SDGsバッジを襟章に付けても、17の目標や169のゴールの存在を知っているだけでは何にもならない。

福永ある講演で「サステナビリティー の分野で日本一を目指すのではなく、世界一を目指して欲しいです」と夫馬さんがおっしゃっていたのをお聞きしたのですが、現在日本が世界を牽引している分野、もしくはこれから牽引することのできそうな分野はどのあたりになるのでしょうか?

夫馬:頑張れるかもしれないのはEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)です。それ以外は主要どころでいくと現時点では厳しい。今の日本は環境後進国ですよね。2010年以降の10年間で一気に差が生まれて遅れてしまい、日本の環境技術では戦えない現状まできています。

日本の技術が落ちたわけではなくて、戦える技術分野が変わってしまった。極端の例を言うと、今の時代にどれだけ環境性能の高いブラウン管のテレビですよと言ってもそれはもう売れない。今はそれに似ています。

将来必要になる技術を創造するチャレンジをしていかなければいけないのに、既存の技術の磨き込みに時間と資金を費やしてしまった。その間にものすごいスピードで海外企業に抜かれていきました。10年前までは日本に世界一がたくさんあって、太陽光発電パネルも2008年頃までシャープが世界一を誇っていたけれど今では10位にも入りません。

大型風力発電機を作る会社も5-6社ありましたが今は商業運転をしているタービンを単独で作れている企業は1社もありません。理由はかつての中心的企業は戦えなくなって市場から撤退したからです。なので、日本で太陽光発電をやろうとしても国産メーカーが強くないのでほとんど中国から輸入するしかない。

福永:日本は遅れていると言われていても流石にそこまでではないだろうと思っていました。この夫馬さんが持っている危機感と私を含めた日本国民が抱いている危機感にはものすごく大きな差がありそうですね。

夫馬:ものすごくあります。日本の多くの人たちは「リサイクル技術はあるよね、でもリサイクル技術はコストがすごくかかる。だったらゴミ発電所で燃やした方がいいよね」と、この10年で言っている事が全く変わらない。

海外ではベンチャー企業などが新しいリサイクル技術をどんどん開発してコストをかなり下げることができたからペプシコもコカコーラも再生素材比率の高いペットボトルを投入できるようになっていったんですね。2020年の東京五輪では廃プラを再生した素材で表彰メダルを作ることになったのですが、それを担うことになったのはP&Gです。日本企業ではないんですね。

▶︎連鎖”していくことで社会は変わる

福永:SDGsの17番目のゴールに設定されている「パートナーシップ」が重要だということをあちこちで聞くのですが、パートナーシップの本質とは何なのでしょうか?

夫馬:大事なのは専門性。今は企業が社内で磨いてきた専門性だけでは、これからの競争に必要な武器が揃いません。自分たちの農場がどんな環境変化を受けていくのか、企業の中に未来の環境影響を分析できる専門家がいないのであれば誰か専門家とパートナーシップを組まなければいけない。

そのときに現地の知識を持っている環境NGOと一緒に取り組んで農場の生産性が落ちないように一緒にやっていければみんなハッピーですよね、と。

これがパートナーシップの本質です。企業側も自分たちがやっていることに関してはもっと専門性を磨く必要するがある一方で、パートナー相手のNGO側にも本当の意味での専門性が求められていく。NGOも本当に頑張っていかないと淘汰されてしまいます。

福永:日本国内でのパートナーシップの動きは活発になっているのでしょうか?

夫馬:日本国内での動きはものすごく遅いです。これは2つの分野で課題があって、1つは企業の人が外の人と組むことに対しての抵抗感。例えば海外では大手の企業がNGOや国連の機関とも手を組むことが一般的になりました。一方で日本企業では長い間NGOや国連機関と手を組むということを封じていたため、未だに心理的障壁があって全然進まないというのが一つ。

もう一つは企業とパートナーを組むNGO側が企業に専門性を伝えていく姿勢に課題があります。自分たちと手を組むことでどんなメリットがあるのか、企業だけでは解決出来ないことをどうやって共に解決していくのか。ただ寄付がほしいとか、「CSR施策の一環で」とか言っている間は、頼もしいパートナーにはなれません。もっと自分たちから伝えていかなければ企業の閉じている心を開けることができません。

福永:パートナーシップを生み出す上で必ず抑えるべき大事なポイントはどのようなものなのでしょうか。

夫馬:本当に当たり前のことですがお互いに対等であるということです。どちらかがどちらかを「使っている」という関係になった瞬間に絶対にパートナーシップは壊れてしまう。企業はNGOを使っているとか、自分たちがお金を出しているから自分たちが言っているように動けとかそういう風になった瞬間に関係は壊れていくし、逆にNGOが企業に対して自分たちがもっとわからせてあげなければいけないとか、わかっていない人たちに教えてやろうというような立場になると壊れます。

例えば企業と開発援助機関の関係でも同じです。この場合、資金の出し手が「案件を委託している」という関係を作ってしまいがちなのですが、お互いがお互いのミッションを達成したいために契約を交わすわけで、どちらかがどちらに対して「やってあげているんだ」となった瞬間にパートナーシップはすごく次元の低いものにしかなりません。

福永:パートナーシップを育てることで企業にはどのような可能性が生まれてくるのでしょうか?

夫馬:NGOとのパートナーシップで期待される専門性は研究開発とモニタリングです。現地で何が起きているのか、例えばアパレルではサプライチェーンの透明化というものがすごく進んでいます。例えば、リーバイスは情報を全部公開しました。監視したいけれどコストがかかるから自分たちだけでは監視できない、だから現地にいるNGOにいる皆さんに報告してもらおう、ということです。今後有望な商品の市場規模や動向、磨くべき技術の提案ができれば、それも喜ばれます。

福永:最後に一人の人間としてSDGs時代を生き抜くために外せないポイントはどのようなところになってくるのでしょうか?

夫馬:まずは”知る”こと、これに尽きます。日本はモノとエネルギーを海外のものにすごく依存しているのに、外で何が起きているのかを全く知らない、知ろうとしないですよね。

日本人にとって馴染みの深いマグロでさえも今では太平洋ではなく大西洋の北側まで行って獲ってきています。日本という国にいる限り、待っていても情報は絶対に入ってこないです。自分がこれからやろうとしていることや関わっていることと気候変動を結びつけるなど、自分で情報と情報を繋げて課題と課題をつなげていく必要があります。ぜひこれから私たちの世界に何が起きていくのかを、”自ら”真剣に知ろうとしてほしいです。

福永:本日は大変貴重なお話を頂きありがとうございました。

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