【日本】政府、経済財政運営と改革の基本方針2021を閣議決定。グリーン、デジタル、地方、少子化の4重点
内閣府は6月18日、経済財政諮問会議と、同会議の下部組織の成長戦略会議の合同会議を開催し、「経済財政運営と改革の基本方針 2021」「成長戦略実行計画」を承認。さらに成長戦略会議は、「成長戦略フォローアップ」も審議の上、承認。その直後に、臨時閣議が開催され、「経済財政運営と改革の基本方針 2021」「成長戦略実行計画」「成長戦略フォローアップ」の3本を閣議決定した。
「経済財政運営と改革の基本方針」は、2022年度の政府予算の重点項目を決めるもの。今回の2021年度版では、グリーン、デジタル、地方創生、少子化対策の4つを政府政策の柱として設定した。また、新型コロナウイルス・パンデミック対策にも大きな予算を付ける。
グリーン
グリーンに関しては、従来どおり「再生可能エネルギーの主力電源化」を掲げ、「再生可能エネルギーに最優先の原則」で取り組むとしつつ、新たに「CCUS/カーボンリサイクルを前提とした利用や水素・アンモニアによる発電を選択肢として最大限追求する」の文言が入った。これによりどちらを優先的に追求するのかを自由に解釈できるようになり、再生可能エネルギーの追求が後退する形となった。原子力発電では、「可能な限り依存度を低減しつつ、安全最優先の原発再稼働を進める」と明記。従来どおりの表現となった。
電力以外のグリーンでは、省エネルギーを徹底し、未利用熱等も活用するとともに、供給側の脱炭素化を踏まえた電化を中心に進める。電化できない熱需要については、水素などの脱炭素燃料やカーボンリサイクルも活用」とし、未利用熱の活用と電化を中心に据えた。自動車では、「EV充電設備や水素ステーションの整備等を進め、普及が遅れている電動化を戦略的に推進するとともに、サービスステーションの総合エネルギー拠点化等を進める」と表現し、転換の時期は明確にしなかった。
プラスチックについては、「資源循環を始め循環経済への移行を推進」と表現。住宅・建築物では、「省エネルギー対策を強化」「ZEH・ZEB等の取組を推進」「森林吸収源対策を強化」と表現。船舶・航空分野では「水素の輸入等のためのカーボンニュートラルポートの形成」等での脱炭素化を進めるとした。地域や暮らしの分野では、6月9日に国・地方脱炭素実現会議で決定した「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、活動を推進し、「2030年までに脱炭素先行地域を少なくとも 100か所創出する」と記載した。
一方、カーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)と矛盾する政策だったメタンハイドレートについては、海底熱水鉱床やレアアースとともに、「国産海洋資源開発を含むエネルギー・鉱物資源の安定供給の確保に取り組む」とし、引き続き継続するとした。
カーボンプライシング制度では、まず既存の非化石証書やJクレジットに関する制度を見直し、自主的かつ市場ベースでのカーボンプライシングを促進するとした。但し、目下、資源エネルギー庁は、現在の非化石証書を扱う「高度化法義務達成市場」に加え、非FIT非化石証書のみを扱う「再生可能エネルギー価値市場」を新たに創設する準備を進めており、これまでの制度よりもさらに複雑化していくことも予想されている。クレジット以外での炭素税や排出量取引については、「成長に資する制度設計ができるかどうか、専門的・技術的な議論を進める」とし、まだ未定。
デジタル
デジタルでは、「行政のデジタル化を強力に推進」「デジタル庁は各府省庁への勧告権等を活用し総合調整機能を果たす。そのため、各府省庁や民間から有為の人材を登用」と記載。行政のデジタル化への意気込みを見せたが、これまで行政のデジタル化が進んでこなかった根本課題が何かには踏み込まなかった。
民間のデジタル化では、「DXの基盤である5Gの整備計画を税制支援も通じて加速」とし、5Gが整備されれば民間でのデジタル化は進むという考え方を披露した。中小企業に対しては「IT導入サポートを拡充」する。喫緊の課題である「デジタル人材の育成」については、大学等でのプログラムの充実や、経済産業省が事業者に委託して展開している「デジタル人材プラットフォーム」のままで、抜本的な課題解決に向けた策はなかった。
地方創生
地方創生では、まず、人の流れとして、「都市から地方へ」で「地域経済活性化支援機構の人材リストを早期に1万人規模へ拡充しつつ、地銀等の人材仲介機能を強化し、地域活性化起業人制度等と連携する」とした。また「地域おこし協力隊等」も充実させる。さらに、「賃上げの原資となる企業の付加価値創出力の強化、雇用増や賃上げなど所得拡大を促す税制措置等により、賃上げの流れの継続に取り組む」とし、税制での幾ばくかの効果を期待する。
観光業では、「観光客が戻るまでの時間を活用し、観光業や観光地の再生のため、宿泊施設や飲食、土産物店等の施設改修や廃屋撤去、経営力底上げやDX推進等による収益性・生産性向上、金融機関等と連携した宿泊施設再生、地方自治体等の観光施設への民間活力導入等に取り組む」。農業では、引き続き、輸出の促進、加工・業務用野菜の国産切替え、スマート農林水産業の実装加速化等を掲げた上で、5月に農林水産省が決定した「みどりの食料システム戦略」の目標達成に向け、革新的技術・生産体系の開発・実装、グリーン化に向けた行動変容を促す仕組みを検討するとともに、国際ルールづくりに取り組むとした。但し、国際ルールづくりについては、「国連食料システムサミット等の機会を捉え」を挙げるにとどめ、NGOや機関投資家主導で進む本質的なルールづくりの場には関心を示さなかった。
スマートシティでは、「政令指定都市及び中核市等を中心にスマートシティを強力に推進し、住民満足度の向上、グリーン化など多様で持続可能なスマートシティを2025年度までに100地域構築する」と目標を設定。具体的には、2021年度中を目処に指定するスーパーシティを起点に、スマートシティ重点整備地域を選定するという。
少子化対策
少子化対策では、「結婚支援、不妊治療への保険適用、出産費用の実態を踏まえた出産育児一時金の増額に向けた検討」を掲げ、多少の金銭負担の軽減を掲げた。KPIを定めた包括的な政策パッケージを年内に策定するという。
一方、児童・生徒の自殺が増えている問題では、「省庁間の縦割り打破」「児童虐待防止対策について新たな検討」を、子供の貧困問題では「子ども食堂・子ども宅食・フードバンクへの支援、地域における居場所づくり、見守り支援等」を掲げた。
成長戦略実行計画と成長戦略フォローアップ
成長戦略実行計画は、予算の骨子を定める「経済財政運営と改革の基本方針 2021」に基づき、成長戦略を掲げたもの。また、成長戦略フォローアップは、成長戦略実行計画に書かれた内容での各省庁での既存政策をまとめた資料。これと合わせ、経済産業省は同日、2020年12月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の資料を、少し具体化したバージョンをリリースしている。
日本政府の政策の構造では、最上段に「経済財政運営と改革の基本方針 2021」があり、それに基づく形で、「成長戦略実行計画」が作成され、さらにそれに基づく形で「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」等が位置づけられている。
しかし実態としては、政策議論は積み上げで構成されており、各省庁が政策を打ち出し、それを成長戦略の中に入れ込んでもらう交渉が行われていく。各省庁の担当原課としては、最上段の「経済財政運営と改革の基本方針 2021」に自分たちの政策に関する文言を入れることは、内閣のお墨付けを得ることとなり、政策が進むため、悲願となる。そのため、今回の決定で文言が入った担当原課は安堵することとなる。
【参照ページ】令和3年第9回経済財政諮問会議・第12回成長戦略会議合同会議
【参照ページ】経済財政運営と改革の基本方針2021
【参照ページ】成長戦略会議(第12回)配付資料
【参照ページ】2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました
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