【SDGsインタビュー】(後編)愛と個性と多様性が溢れる不思議なレストラン(障がい者福祉施設)「らんどね 空と海」の物語
福永:普通の飲食店では絶対にできないことがここではできる、と。らんどねでスタッフ(利用者さんの)の魅力をキラリと光らせる、そんな藤田さんにとって福祉とはどのようなものなのでしょうか?
藤田:僕はあまり福祉施設だからここに来たと思っていなくて、一番は僕自身のためです。僕が怪我をしてダンスを出来なくなったように、誰もが障害者になる可能性があるじゃないですか。
障害や福祉に限らず、困っている人に手を差し伸べられる社会になったら、自分がそうなった時や子供ができたら困った時に助け合う、そんな社会になったらと思いますね。ただ、そうあってほしいと思います。僕自身、ここに来てたくさん助けられてばっかりです。
福永:例えば藤田さんはどんな時に助けてもらうのでしょうか?
藤田:僕はもうしっちゃかめっちゃかで、次から次にあれやりたいこれやりたいと言ってみたり、シェフなのにお客さんと長々話をしていたり。
どんな仕事でもそうですけど、一人には限界があります。より良いものを作るためにはいろんな協力者やチームが必要ですね。お皿を持っていってくれるのも、玉ねぎの皮も剥いてくれたり、裏で小麦を挽いてくれたりするのも彼らです。何ひとつ嫌な顔をしないでやってくれます。それで、仕事が終わると「さあ、褒めてくれ」と言ってくる(笑)
福永:藤田さんとスタッフの方の微笑ましいやりとりがイメージできます。一般的にはレストランでシェフというとチームのキャプテンみたいなイメージがあるのですが、藤田さんはチームでいうとキャプテンというより…
藤田:僕はチームで一番下っ端ですね(笑)大事なのは役割分担、適材適所ですよね。
福永:チームの中で藤田さんのポジション・役割を例えると…
藤田:好き勝手やるポジションですね(笑)すごく怒られるポジションですね。でも、流石に申し訳ないなと思って、帰る前にお皿を洗おうとしたらスタッフの方が「藤田さんはそんなことやらなくていいんだから、他のことをやってください」といってくれて。本当にありがたいです。僕だけでは何にもできないですから。
福永:先ほど「困っている人に手を差し伸べられる社会」というお話がありましたが、日本が「困っている人に手を差し伸べる」社会によりシフトしていった時、そこにはどんな可能性があると思いますか?
藤田:僕がいつも心がけていた事と、世の中全体の意識が近くなってきたと思っています。台風だったり地震だったり、いつ自分が被害を受けるかわからない、それこそオーガニックやヴィーガンという声も聞こえてきて。
ただ、先ほども言いましたが、一人では大きなことはできません。いい世の中にしていこうということにフォーカスするのではなく、一人一人の目の前のことが大きなことになっていくと信じています。
地球平和や環境改革といった事に興味があるのなら、大きすぎる対象にアプローチするよりも家を掃除したほうが確実に結果がでますし、知らない誰かの力になりたいと思う前に、家に帰って家族や友人とご飯を食べたほうが良いと思います。
有難い事に「お店出さない?」といったお話をいただいたりもするんですけど、自分の手の届く範囲、隣の人、ここにいるスタッフ全員との時間を大切にしたいです。まずは近くにいる人に迷惑をかけることを少なくしたいですよね(笑)
福永:今藤田さんが話してくださったこと、手の届く範囲で、自分の近くの人を大切にるするということを「らんどね」にある全てのものから感じるような気がします。例えば、ピザ窯で使っている薪も、、、
藤田:はい、定期的に切り倒さなければならなくて行き場を失っていた梨の古木を、梨農園さんから頂いています。僕らは薪が手に入り、梨農園さんも喜んでくださっています。ピザ窯で焼いた梨の木の灰は、釉薬にして陶器にしたり、畑に戻したりして有効活用しています。
福永:自分たちができることを積み重ねてきたからこそ、この空間から優しさと愛を感じます。
藤田:環境、平和、オーガニックといった言葉はすごく素敵なのですが、盲目になってしまわないように気をつけています。
もちろん環境に負荷をかけない持続的なことは大事なのですが、それを遠くから燃料を使って持ってきていたら意味がないと思います。それならば別にオーガニックではなくても、近くの農家さんから直接いただいてきたほうがいいと思います。
距離ってすごく大事だなと思ったのが、仕事で新島に行った時に漁師のおっちゃんが「いや、昨日はたくさんイカが釣れた、儲けた。しかも近場だったから燃料も使わずにすんだ。遠かったら、マイナスの方が多かったりするかんな。」と僕に話してくれました。
そのおっちゃんの何気ない一言で、新島からイカ釣りに行くだけでそんなにお金がかかるんだとハッとさせられたんですね。仕事でも旅行にでも、「近くに行く」という選択を頭に入れておくだけで負荷を減らすことができる、と。
福永:確かに、オーガニックだからといって、海外から取り寄せたものを食べていては大きな環境負荷につながってしまいますよね。距離感、これからぜひ自分の中に持っておきたいものさしです。
藤田:プラスをとることでマイナスに目が向かないことは非常に危険なことだと思っています。今まで出していたマイナスを出さなくなるということも、プラスと同義です。プラスを取ったほうが楽なのですが、勘違いしてはいけない。
らんどねでは、ヴィーガンとかオーガニックといった事を敢えては言っていません。オーガニックやヴィーガンを間違いのない正義だとは思っていないからです。
慣行農家さんだって一生懸命作っていますし、そもそも野菜を作ってもいない自分なんかが良し悪しを言えませんよね。何においてもメリット、デメリットがありますし、それをしっかりと理解した上でチョイスする必要がある。多様性ですよね。
福永:みんな違ってみんないい、ということですね。
藤田:一番大事なのは誰に対しても敬意を持つことだと思っていて、そこでコミュニケーションをしっかりとる。コミュニケーションを取る前に決めつけてはいけないですし、コミュニケーションを取る前に敬意を持って接しなければコミュニケーションも取れないですし。
福永:当たり前のようなことですけど本当に大事なことですし、そこができていないとどんどんひずみが生まれていってしまいますよね。
藤田:障害を持っていようが持ってなかろうが、利用者さんとスタッフの関係だろうが、僕が一番楽だなと思っている方法が、全員に同じように接すること。お客さん、家族、子供であっても大人であっても。でも、僕は自分の考えを押し付けるつもりは全くないですし、自分がいいと思ったことをやるだけです。
福永:最後に、これから「らんどね」でどのような挑戦をしていきたいかお聞きしてもよろしいでしょうか?
藤田:やっぱりもっとクオリティーを上げていきたいですね。今やりたいと思っていることはお客さんを最後まで見送る事。
例えば、入り口のところに足の形の真鍮をぽんと置いておいて、お客さんが来て「この足跡何?」と聞かれたら「ここにみんなが立ってお見送りするんです」という会話ができたら微笑ましいじゃないですか。蝶ネクタイをつける、お客さんの名前を読んでから話しかけるとか。なくてもいいんだけど、あったらちょっとクスッとしてしまう仕掛けを、これからもたくさん作っていきたいですね。
福永:例えば、あちらにかかっている木の板に「ofis」(オフィスの事)と書かれているものも、お土産として販売している「なちゅなるクッキー」も、そのうちの一つですよね。
藤田:はい、そうです。敢えてそういうものを残しておいて「これでいいんだ」と思うと自分も認められた気持ちになりますし、自分も失敗していいんだと思えますしね。ちょっとしたクスッが幸せなんじゃないかなと。
福永:今でも十分すぎるくらい心地よいこの空間が、さらに素敵な場所になるんですね。新たなクスッを探しにまた「らんどね」に来ます!本日はありがとうございました。
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