【SDGs インタビュー】(後編)世界を農でオモシロクする、the CAMPus “校長”井本さん

【SDGs インタビュー(後編):『農』こそが次の生き方、コンパクトな考え方から持続可能性へ】

45万haの耕作放棄地はなくせる

井本さんが「校長」を務めるインターネットプラットフォーム『theCAMPus』の講義ページ

– 井本さんはTheCAMPusを通して、やはりコンパクトな農業や持続可能な社会への意識を広めていきたいとお考えなのでしょうか?

井本:はい。わかりやすく言うと、45万haの不作放棄をコンパクト農家たちで埋め尽くしていく、ということをしたいわけですよ。僕が目指しているのは、2030年、「耕作放棄地は0になりました」というニュースが流れること。そういう社会が実現するために次世代の農家を育成しようというわけ。

45万haというと、一人0.5ha換算で言ったらですよ、およそ90万人が新規就農しないといけない計算だよね。でも、今はまだ毎年5万人ちょいしか就農しない。その上、農業の世界では就農者よりも離農者の方が多いでしょ。だから、2030年までにはこの辞めて行ってしまう人の数を減らすという課題も一方であるかもしれない。でもね、僕は辞めたい人は辞めればいいし、やる気のある人がやればいいというスタンス。「この土地を守らないといけない」と思うとうまくいかないんですよ。それよりも、もっと面白いことやろうと、ビジョンをきちんと示して、そのビジョンに対して実現へのマイルストーンを自分で設定できる子たちを養っていかなければいけないと思っています。

– やる気のある人がどんどん就農していって、90万人に到達すれば良いということですね。今が5万人ずつだとすると、かなりのハードルな気がしてしまいます。

井本:政府が言っている「関係人口」が鍵ですね。どういうことかと言うと、農村と都市を行き来しながら、農的暮らしを半分、残り半分は都市での暮らし、という人を増やしていけば良い。週末農家で、0.5ha年商1000万を実現していくということですね。仲間と一緒にやれば、自分が畑に行くのは週末だけど、平日は他の人がやってくれる、というような状況が作り出せるよね。東京の1200万人が「次の生き方ってなんだっけ?食ってなんだっけ?」と思って、アクションを起こしていけば、90万人も夢じゃない。

「蒸し大豆」で念願のアメリカ進出を果たした実例も、講義内で紹介されている (theCAMPus 2019/06/15講義より)– 確かに。日本全体として人口は減っていくけれど、それならその中でも耕作放棄地は減らせそうですね。作ったものは、自家消費がメインになるでしょうか。

井本:そうですね。現状、私たちのテーブルで何か困っていることは…ないんですよね。食料時給率は上がるけど、でも、僕、食料自給率のことを考えるのって「有事」の時って思ってて。世界との関係性がうまくいっていれば、有事はないし、海外からも物は入ってくる。海外からの輸入を制限する前に、飲食店を出店するための規制をかけていく方が有効かもしれないよね。

さて、そうすると、日本の農村で新しく90万人の人が作り出したものは、海外に行くわけですね。日本が海外への輸出を積極的にやっていくことほど可能性あることはないなと思います。ただ、現状では、せっかく作っても、日本にはセールスしていける人が少ない。

次世代の農家は、コミュニケーションから流通をチョイスする

2019年7月には『田万里有機あぶらの里プロジェクト』でクラウドファンディング目標金額を達成した。(Facebookページより 2019/7/29)

– ということは、これからの次世代農家になっていく人は、セールス、マーケティングのスキルを兼ね備えた人っていうことですね?

井本:その通り。もう当たり前のように英語が喋れるし、プレゼンテーション能力も高くて、自分たちはこんな想いでやっているという熱いビジョンを語れる。海外に出すというのは決してdistributionではなく、communicationの話なのよ。ルートさえあって、それに乗せられれば…というところというより、そこにどんなコミュニケーションが必要なのか、ということをまず考えることが必要になってくる。

例えば、ある酒蔵で6次化して日本酒を作ったとする。海外に販売していく時に、日本の文化が好きな人に届けたければ、じゃあ日本の食材を扱っているスーパーに卸しに行こうと考えると思う。でも、そういう風に短絡的に考えて流通をチョイスしたら、もしかしたらこだわって作っているのに価格がものすごく安くなってしまうかもしれない。逆に、日本酒に詳しい星の付いたレストランだけで取り扱ってもらう、となると、入り方が全く違って…。そういうレストランではお客さんに一本2万円とかで出すかもしれないでしょ。

誰とコミュニケーションしようとしているかによって、流通のチョイスは全く変わってくる。ゴール、それこそsusteinable development goalsをどこに設定するか。きっと大量生産とは逆行した方向へ物事が進んでいくよね。

コンパクトな考え方から持続可能性へ

みんなでつくったお米を、みんなで食べる。ご飯が主役に。(Facebookページより 2018/12/5)

– 冒頭の方で、コンパクト農業に関する哲学的なお話がありましたが、「原則、自然に従う」ということのほかに何かエッセンスはありますか?

井本 SDGsというものの根本は「持続可能性」なわけよね。僕がなぜコンパクトにこだわるかというと、宇宙の原理原則だと思うんだけど、最小のものは最大とつながっていると思うから。最少単位で面白いことできていれば、それをぐっと広げてみたらめちゃくちゃ面白い現象になっている。だからコンパクト農業を推進していく人たちがめちゃくちゃ生まれてくれば、これはもうマクロな視点でめちゃくちゃ面白いことになっているわけですよ。

今みたいな「大量生産/大量消費」とはまるっきり逆サイドのアプローチになってきて、みんな農的な方向で暮らしていくのも素敵だよね、豊かだよね、マインドフルネスだよね、と思うようになるんじゃないかな。

– コンパクトな農業が世界各地でぽつぽつと起こり始めたら、それこそ世界が変わるかもしれないということですね。

井本:そう。ここで、僕がコンパクトって言っているのは、単に規模がという話ではなく、考え方がコンパクトっていうことね。大規模な農家さんでも、その考え方がコンパクトになっていけばSDGsな農業は実現していくんじゃないかと思うし。

– 考え方として、大事なところをおさえているかということですね。そんな農家さんは現状は日本にもいらっしゃるのでしょうか。

井本:めちゃくちゃいるよ。しかも、その数は増えていると思う。

写真:インタビュー中、熱く語る井本さん

– なぜ暮らし方の考え方のシフトが起こっているのでしょうか。

井本:一番は「始められることから始めよう」という発想なんじゃないかな。農業に従事する農家になるっていうのは、少し昔前まではすごく大変なことだったと思うけど、今のコンパクト農業では、朝から昼まで働く、オンシーズンだけ半年間だけ働く、という風に例えばやっていたりもする。それってすごく豊かな暮らし方だし、自然にも自分にも負荷をかけないのよね。負荷をかけないから持続もする。これってあるべき姿だと思う。

– 私も祖父が山で小さく家庭菜園をやっていたり…という程度しか農業の具体的なイメージはなかったのですが、今のお話を聞いて「そういう形ならやってみても良いのかもしれない」という気持ちになりました。きっと、他にもそう思う人がいるんじゃないかな。感想になっていましたが…(笑)

井本:全然!そういう風にちょっとずつスイッチが入っていくと、多分ね、今度農村に行って風景を見つめたときに、感覚が全然違うと思う。

やっぱりね、都市でビジネスの世界を生きていくことももちろん大切なんだけど、農村でビジネスって同時に暮らしも豊かになってくるでしょ。そうすると、農村がめちゃめちゃ宝の山に思えてくると思うよ。よくいうんだけど、農村なのに『ブルーオーシャン』だよね(笑)

ぜひ農村で今日の話を思い出してみてよ、なんかね、…心がSDGsになると思う(笑)

– 心がSDGsですか(笑)

そう、「自分たちがこれが正義だ」と思っていたものが覆されるというか。改めてはっと気づくと思う。そして、心がSDGsなら行動も変わってくるはず。

『農』こそが次の生き方

井本さんは、2019年9月から故郷 田万里で月の半分を過ごしている。(井本さんFacebookより 2019/9/16)

– 最後に一つだけお聞きしたいのですが、農業ではなく、井本さんが『農』と表現する理由はなんなのでしょうか?

井本:言葉って”言霊”っていうじゃない。誰かとコミュニケーションをとるときに、言葉にできないことってないと思うんですよ。僕らは人類に生まれて、言葉を使えるっていうセンスがあるわけだから、それを活かして伝えていくからSDGsになるわけでしょ。だからやっぱり言葉を諦めてはいけない、ということが僕の生き方の前提にあるわけですよ。言葉できちっと伝えていこうと。

で、質問の答えだけど、『農業』というとビジネスだけになっちゃうでしょ。でも『農』は一個の文化価値で、その文化的な価値をもっと広めていこう、ということが前提にあると思っているのね。暮らすことと働くことって、そもそもセットなはずだけど、『農』の世界では、自然環境の中で作って、働いて、食べてっていうことが一本の線でつながっている。これってすごい価値じゃない。

だから、農業も全部包み込んで農的な暮らしというか『農』こそが次の生き方だって思っている。『農業』って言っちゃうと、途端になんか…冷めちゃうというか。そういうのがあるんじゃないかなぁ。

都会で一生懸命メッセージをすること

最後に、取材の様子。オフィスにも、古い農機具や、循環型の野菜づくりの装置があり、とても都心の一室とは思えない。

井本:あともう一個、締めくくりで僕が伝えたいことがあるんです。今は、僕がみんなに「農的な暮らしがぜってぇおもしれぇぞ」と豪速球で投げかけているんだけど、そんな風に、都会で誰かががっつり「こっちの方が面白いぜ」っていうのをメッセージしないといけない。

TheCAMPusも、ただただ面白いから読むでもちろんいいんだけど、その向こう側に「誰かに伝える」という想いで会員になってもらえたら嬉しいな。読むことが次世代に繋がるんだぜっていうことを、ここでお伝えしておきたい。

― そうですよね、500円ですし…!数千円するものだと思っていたので、びっくりしました。

井本:そうだよね、ダイエットで一回弁当抜くだけの話よ(笑)誰かが都会で一生懸命メッセージをするから、2030年には「耕作放棄地が0になりました」っていうニュースが流れると思うんだよね。だからそのことをみんなに伝えたいし、伝えてもらいたい。

– まずは、この記事がその役割を果たせると信じています。本日はお忙しい中にも関わらずありがとうございました!

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