インドネシア国会は10月5日、新型コロナウイルス・パンデミックで打撃を受けた経済を立て直すため、労働条件や環境規制を大幅に緩和する内容を盛り込んだ「雇用創出オムニバス法案」を可決し、同法が成立した。これに対し、労働者の抗議活動が激化するとともに、アパレル世界大手やNGOからも再考を求める声が上がっている。
今回焦点の雇用創出オムニバス法案は、新卒300万人と、パンデミックでの失業者のうち600万人の雇用創出を狙ったもの。主な内容は、まず、国が定めるセクター別の最低賃金を撤廃し、最低賃金の設定は地方政府に委ねる。また、退職金支払の上限を、給与32ヶ月分から19ヶ月分へと減額しつつ、国が支払う失業保険給付を6ヶ月間引き伸ばす。
加えて、時間外労働を1日4時間、1週間で18時間まで許容し、週間休日も現在の2日から1日へと減らす。またアウトソーシングできる業務や駐在員が就ける業務範囲も拡大した。
環境規制では、重大なリスクを伴う案件以外は、政府への報告を不要とした。
インドネシアでは、労働法や環境法の要件が厳しく、過去5年間でビジネス環境は改善されたとはいえ、世界銀行の「ビジネス環境の現状2020」でインドネシアの事業のしやすさは73位。政府は40位にまで浮上させることを目標としているが、達成できる見通しは立っていない。同法の成立に関し、インドネシア商工会議所は歓迎の意を表明した。
今回の法案は、パンデミックが始まった半年ほど前に検討されたが、10月5日に国会で可決されてから抗議行動が大きくなった。インドネシア労働組合連合会(ITUC)を中心に、10月5日には比較的温厚な抗議行動だったが、10月7日と10月8日にはジャカルタやバンドンでの抗議活動が暴徒化。400人以上が逮捕された。同国最大のイスラム組織ナフダトゥル・ウラマー(NU)も反対姿勢を強めている。
また同法に対しては、国際社会からも批判の声が上がっている。アパレル世界大手や業界団体等24機関は10月5日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領とプアン・マハラニ下院議長に対し、同法成立の直前に、国際労働機関(ILO)が定める国際労働基準との整合性を求める共同声明を発表した。参加したのは、ヒューゴ・ボス、VFコーポレーション、Lidl、アルディ・ノース、アルディ・サウス、バートン、アメリカン・アパレル・フットウェア協会、公正労働協会(FLA)、Fair Wear、Social Accountability International(SAI)等。同声明では、具体的なILO条約の規定を列挙し、遵守を求める内容を明確に示した。
機関投資家からは、パーム油を中心に、今回の規制が環境破壊を助長することにつながるとして、是正を求める共同声明を発表した。署名したのは、リーガル&ゼネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)、Aviva Investors、Robeco、ストアブランド・アセット・マネジメント、KLP、英国国教会、三井住友トラスト・アセットマネジメント等36機関。署名した機関投資家の運用資産総額は4.1兆米ドル(約430兆円)。
【参照ページ】JOINT LETTER TO THE GOVERNMENT OF INDONESIA ON WORKER RIGHTS
【参照ページ】Open letter to the Indonesian government on the Omnibus Bill on Job Creation